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つつみ動物病院にはまだ数回しか通っていないけれど、感じたことはたくさんある。
一番に言えることは、いつも患者が笑顔だということだ。そして堤先生をはじめ、虎谷先生やスタッフが患者たちにとても信頼されている。それは待合室で順番待ちをしているときの患者同士の会話や、待合室に出てきて患者の様子を見ているときの先生たちの対応を見ても明らかだ。
もちろん、以前通っていたモリモト動物病院もすごくあたたかくて好きだったけれど、それと同じようにあたたかさを感じる動物病院だと思う。
虎谷先生は確かに病院ではクールだけれど、動物への接し方や丁寧な対応に患者も安心しているのだ。だからこそ、慕われる。
「もちろんです。先生がいつも動物に対して真剣だということはよくわかってますし、何よりもコタロウへの接し方を見てたら明らかです。コタロウがケガをしたときも丁寧に治療してくださったし、遊んでくれてるときだって。いつも真剣に接してくれてることはわかるから、これからもお任せしたいです」
「こうやって面と向かって言われるとちょっと照れるな。でも、そういうふうに見てもらえるのは獣医として認められてるみたいで嬉しいよ。なんだか坂本さんにはこれから頭が上がらなくなりそうだな。こうやってコタロウとも遊ばせてもらってるし」
嬉しそうな笑顔が先生に浮かんでいて、心臓が跳ねた。真面目な話をしているのに、どうして私の心臓は先生といるとこんなに元気になってしまうのだろうか。
「それに、その目かな」
「え?」
「そんなふうにまっすぐ見つめられると、隠しごともできない気がする」
「!」
「なんてな」
先生がそんなふうに言う真意はわからなかったけれど、その意味を聞くことはできず、私は先生のことを見つめていた。でも、彼はもう私ではなくコタロウに目を移していた。
「コタロウ、早く起きないかな」とオアズケを食らってしまった虎谷先生は拗ねたように言いながら、優しい目をしてコタロウのことを見つめる。寝ているところを起こしてまで遊ぼうとしないところからも、動物の気持ちを大事にしていることが伝わってくる。
こんなに動物想いの先生が担当医のコタロウは、幸せだと思う。そして、それは私もだ。こんなふうに先生と話すことができて、素顔を見ることができて、なんだかすごく得をした気分で……何よりも嬉しかった。
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