1*ネコが繋いでくれたもの

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   ――子猫と初めて会ってから約2週間。私は最近、璃世の都合に合わせて、仕事終わりに璃世の家を訪ねている。 「おじゃまします」 「どうぞどうぞ」 「ごめんね。何度も通っちゃって」 「全然大丈夫よ。あの子のためだし、私も美夜子と話せるのは嬉しいから。ネコがいるとはいえ、家にひとりでこもってるのって結構疲れるの」  璃世は嫌な顔ひとつせずに笑みを浮かべながら、私をリビングに促す。璃世の家に来るたびに思うけれど、ネコが一緒に住んでいるとは思えないほど整理整頓されている。スタイリッシュなのにあたたかさを感じる空間で、自分の家ではないにも関わらず落ち着く。  璃世は大学の建築部を卒業していて、建築やインテリアに精通している。ネコが過ごしやすいように設置されたキャットタワーやガラス張りのキャットウォークもインテリアにばっちりはまっている。  璃世のセンスは抜群で、私も一人暮らしを始めたときや引越しをしたときには、璃世に手伝ってもらった。そんな璃世は4年前に結婚してからは建築やインテリア関連の在宅ワークをしているらしい。  璃世にはネコと一緒に住むための部屋の相談や、子猫を飼うための準備、マサコちゃんも通っているという動物病院の紹介、そして、ネコの飼い方や習性を伝授してもらっている。私はすでに、その子猫と一緒に生活をしていくのだと強く心に決めていた。  そんな日々を続けて、今日で子猫に会うために璃世の家に通い始めてから5回目になる。 「コタロウ~」  私が子猫と一緒に過ごしていきたいと決めた日から数日をかけて、悩みに悩んでつけた子猫の名前を呼ぶ。“虎太郎(コタロウ)”には、“虎のように強くなりますように”という願いを込めている。  でも名前を呼んでもコタロウから私に寄って来ることはないし、未だに一度も触れることはできていない。ただ、私の自惚れかもしれないけれど、最初の頃よりも目を合わせてくれる時間が増えた気がするのだ。
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