その1

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その1

―――ボクは大阪が嫌いだ。 社会の授業中。先生が黒板に文字を書くほんの僅かな間にも、ヤジが飛び交うこの教室。 「なぁなぁ、センセー、それってホンマにいるん?」 ―――お前らさ、小4にもなって先生と友達をごちゃ混ぜにしたしゃべり方をするなよ。 「だって、グンマとトチギなんて、どっちが右でも左でもええんちゃう?」 ―――何を言ってるんだよ。お前にそれを決める権利は無いし。 「茨城県ってのも、何やってんのかワケ分からんよな」 「大阪に茨木があるから、あっちの茨城はもう無しにしよーな」 「アホなこと言うてんと、これくらいはしっかり覚えとけよ。特にこの3県の県庁所在地の名前は、みんなよぅ間違えるからな」 先生はそう言って、黒板に書いた北関東3県の地図に、水戸と宇都宮と前橋を書き加えた。 途端に教室全体がため息で覆われる。 「あかん……絶対覚えられへんわ。この前、うちのお父ちゃんもそこの3つは答えられへんかったで」 「これはイメージで覚えとけば、なんとかなるぞ。例えば水戸は水戸納豆、宇都宮は宇都宮餃子、前橋は……」 「先生もあかんやん!」 一瞬の間も許さずにツッコミが入り、みんなも先生も同時にゲラゲラと笑った。 笑わなかったのはボク一人。 これが授業って、信じられない。 先生とおしゃべりしてるだけじゃないか。先生までふざけすぎだ。 そんなふざけた先生に、授業の後で呼ばれた。 「なぁ、学校どうや?ちょっとは慣れたか?」 ―――慣れたいと思いません。 「みんな、お前が独りでいるの、気にしてるんやで。少しずつでも喋りぃや」 ―――余計なお世話だ。 「まぁ、ボチボチ行こな」 先生はそう言って、ボクの肩をぽんと叩いた。 大阪の人が、そうやってやたらと人を触って来るところも馴れ馴れしくて、ボクは嫌いだってのに。
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