14人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
その1
―――ボクは大阪が嫌いだ。
社会の授業中。先生が黒板に文字を書くほんの僅かな間にも、ヤジが飛び交うこの教室。
「なぁなぁ、センセー、それってホンマにいるん?」
―――お前らさ、小4にもなって先生と友達をごちゃ混ぜにしたしゃべり方をするなよ。
「だって、グンマとトチギなんて、どっちが右でも左でもええんちゃう?」
―――何を言ってるんだよ。お前にそれを決める権利は無いし。
「茨城県ってのも、何やってんのかワケ分からんよな」
「大阪に茨木があるから、あっちの茨城はもう無しにしよーな」
「アホなこと言うてんと、これくらいはしっかり覚えとけよ。特にこの3県の県庁所在地の名前は、みんなよぅ間違えるからな」
先生はそう言って、黒板に書いた北関東3県の地図に、水戸と宇都宮と前橋を書き加えた。
途端に教室全体がため息で覆われる。
「あかん……絶対覚えられへんわ。この前、うちのお父ちゃんもそこの3つは答えられへんかったで」
「これはイメージで覚えとけば、なんとかなるぞ。例えば水戸は水戸納豆、宇都宮は宇都宮餃子、前橋は……」
「先生もあかんやん!」
一瞬の間も許さずにツッコミが入り、みんなも先生も同時にゲラゲラと笑った。
笑わなかったのはボク一人。
これが授業って、信じられない。
先生とおしゃべりしてるだけじゃないか。先生までふざけすぎだ。
そんなふざけた先生に、授業の後で呼ばれた。
「なぁ、学校どうや?ちょっとは慣れたか?」
―――慣れたいと思いません。
「みんな、お前が独りでいるの、気にしてるんやで。少しずつでも喋りぃや」
―――余計なお世話だ。
「まぁ、ボチボチ行こな」
先生はそう言って、ボクの肩をぽんと叩いた。
大阪の人が、そうやってやたらと人を触って来るところも馴れ馴れしくて、ボクは嫌いだってのに。
最初のコメントを投稿しよう!