同棲

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その日は、ただいまといういつもの言葉すらなかった。 「散らかってるけど。あがって。」 「えー、ぜんぜん散らかってなんかないじゃん。俺の部屋に比べれば高級ホテルみたいだよ。」 「もー、大げさね。」 彼女が男を連れて来た。 「あなたにも紹介するわね。会社の同僚の、柴田君よ。」 「こんばんは、はじめまして。」 その男は笑顔で、俺に挨拶した。 「こんばんは。」 俺も挨拶を返したが、心は穏やかではない。 何故、その男を家に入れたんだ? 「うわー挨拶してくれた。すげー。」 柴田という男は、大げさに反応した。 俺をバカにしているのか?柴田。 「君、ご飯も作れるんだって?」 「ええ、多少。レシピは限られますが。」 「マジで?凄いなあ。」 柴田。気に食わない。 どうして彼女はこんな頭の軽そうな男を家に招いたのだろう。 「今日は、ご飯は作らなくてもいいよ。帰りにスーパーで買ってきたから。」 彼女は俺に微笑みながら、買い物袋を見せて来た。 その買い物、その男としてきたのか? なんだかまるで夫婦きどりじゃないか。 俺の中にふつふつと怒りが湧いてきた。 俺がどんなに苦労して、君と同棲にこぎつけたと思ってるんだ。 「ねえ、これ、高かったんでしょ?」 柴田が俺を指して、言った。     
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