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下らない理由だと、アヤカは自分を笑った。それが皮肉な態度と取られないように、グラスに口をつけてごまかした。アヤカが飲んでいるのは、ウーロン茶だ。けれどウーロンハイということにしている。でなければ「せっかくだし、飲もうよ」なんて、強引にアルコールを飲ませようとしてくる人間が、座にひとりは必ずと言っていいほどいるからだ。それをハッキリと断る勇気も、やめなよと助けてくれそうな人も、持っていない。だからこっそりと店員に注文を伝え、そっと渡して欲しいと頼む。アルコールを摂取していないと、知られないように。
なんて窮屈な時間なんだろう。
アヤカはうんざりしながら、自分の弱さに嘆息する。誘いを断れる勇気があれば、もっと有意義な時間を持てただろうに。
「ねえねえ。アヤカちゃんは、コップ一杯の水の量、どのくらい?」
酔いが顔に出やすいのか、茹蛸のようになったケンジが、だらしのない笑顔で問うてきた。アヤカは精一杯の愛想笑いを浮かべて、紙切れを彼に渡す。合コンの幹事が、座が盛り下がらないように、話題ができるようにと用意した、グラスの絵が書かれたメモ。
これは心理テストです。グラスの中の水は、どのくらい入っていますか。ぱっと思い付いた量を、書いてください。
バカみたい。
そう思いながら、アヤカはみんなと同じようにペンを持って、記入した。
どういう結果が発表されるのか、知っていながら知らないふりで答える問題。自分がどう見られたいかによって、返答を決められるテスト問題。空っぽに書けば現状に不満を持っている、という意味になり、たっぷりと入っているように書けば、満足をしているという結果になる。
あたりさわりなく過ごすため、アヤカは真ん中に線を引いた。
可も無く、不可も無い。
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