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ひやりと胸のあたりが冷たくなる。けれど他に、どんな切り抜け方があるだろう。タクヒロを狙っていると、勘違いされてはたまらない。彼を求めているカズミに睨まれたくはないし、カズミを応援している面々に白い目を向けられるのもイヤだ。彼女達からの評価を下げないためには、タクヒロからの評価を下げるしか無い。日常の時間を多く過ごす相手に、悪く思われないことのほうが大切だ。誰からも好かれるなんて、夢物語。ならば接点の低い相手の印象を、悪くするほうを選ぶのは当然のこと。
アヤカは凍えた動悸をなだめようと、深く息を吸った。
仕方が無いと自分に言い聞かせるのは、納得していないからだ。誰からも悪く思われたくはない。嫌われたくない。特別で無くていいから、存在を認められていたい。ひとりぼっちはイヤだ。だから、立ち位置を間違えないように、当たり障りの無い存在でいたい。
アヤカは気持ちを暗くした。明るくはしゃいだ空間にいるのに、暗く静かな、湿気た場所にいる気がする。大勢でいるのに、孤独を感じている。
私の心のグラスは、空っぽだ。
「俺はさ、半分って、すごくいいと思う」
タクヒロの声が、アヤカの耳朶に触れた。それは静かで優しく、気分を害した気配は微塵も無かった。
「腹八分目って言うだろう。満たされすぎると、苦しくて身動きが取れなくなる。半分って、天秤で言えば吊り合いが取れている状態だから、自分次第で可にも不可にもなれるんじゃないかな」
アヤカは顔を上げられず、テーブルに目を落としたまま、じっとしていた。どうすればいいのか、さっぱりわからない。どうしてタクヒロは、会話を流したことに気を悪くしないのだろう。
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