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「空っぽだと、動く気力が起きないか、ガムシャラになりすぎて、とんでもないことになるかもしれない。多すぎるとこぼさないように、慎重になる。動かせなくなったりもする。でも、半分だと、増えたり減ったりしながらも、自分の道を進んでいけそうだよな」
アヤカはそっと、上目遣いにタクヒロを見た。タクヒロは遠くを見るような目を、グラスに向けている。彼のチューハイは、グラスに半分の量だった。
「俺の満足度のグラスは、あふれちゃってるからさ。多すぎるぶんを、そっちのグラスの空いているところに、少しだけ移させてもらいたいんだけど」
タクヒロにぎこちない笑みを向けられ、アヤカは目をまたたかせた。
「……えっ」
だから、とタクヒロが眉を下げる。
「俺はあふれて動けないから、そのぶんを――」
「タク!」
タクヒロの言葉は、ケンジの呼び声に遮られた。一瞬くやしそうに顔をゆがめてから、なんでもないふうにタクヒロが席を立つ。アヤカはケンジとふざけあうタクヒロを、呆然と眺めた。
いまの言葉は、どういう意味だろう。
視界の端に、鋭い目をしたカズミが見えて、気づかないフリをしながらグラスに口をつける。ちらと横目で、タクヒロが置いていったチューハイのグラスを見た。グラスに半分だけのチューハイ。空いている部分に、あふれそうなものを入れる。それはとても合理的に思えた。
――半分だと、増えたり減ったりしながらも、自分の道を進んでいけそうだよな。
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