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そんなふうに、考えられる人がいるなんて。
アヤカは静かな驚きに満たされる。誰もが心のグラスいっぱいの、充足を望んでいるものと思っていた。それを不自由だと、タクヒロは言った。
あふれているタクヒロの心の水。それをアヤカの空いている部分に移したいというのは、共に色々なことを分かち合いたいと、遠まわしに言っているのか。
アヤカの頬が熱くなる。
アヤカの心のグラスは、本当は空っぽだ。あふれている彼の水を受け止めれば、互いに半分となる。タクヒロの言う、吊り合いが取れている状態になる。
けれど彼は、カズミが狙っている人だ。彼女達との平穏な日々を望むのならば、聞かなかったことにするのが最良の選択。
それが、一番いいことだ。
アヤカはそっと、タクヒロを見た。彼の考え方を、もう少し聞いてみたい。そうすれば、どうにもできない窮屈な状態から、抜け出すきっかけを掴めるかもしれない。自分で見つけた立ち位置から動かないように、息をひそめて生きる以外の道を、見つけられるのではないか。
――空っぽだと、動く気力が起きないか、ガムシャラになりすぎて、とんでもないことになるかもしれない。
空っぽだから、動けない。
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