-蒼-

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 絶え間なく求めると情熱的に返してくる舌は、いつまでも裏腹な言葉を差し出す。  どんなときも、抱きしめたら必ず反応する身体。  こんなに好きなくせに、俺がいないと駄目なくせに、それでもなぜ・・・!  ボンネットの上にその体を乱暴に倒して押さえつけた。  首を振る征司の後頭部を片手で掴んで固定し、更に唇を犯す。  思い出せ。  この身体は俺のものだ。  「そう・・・」  降りしきる雨の中、夜明け前の空のような濃く青い瞳からは涙が次から次へとこぼれおちていく。  なぜ涙を流す。  俺はここにいる。  ここにいるのに。 「お願いだから・・・!」  亜麻色の髪が紺色のボンネットの上に散った。  濡れた金色の糸が夕闇色の塗装に映えて美しかった。  ここは、車の上。  今さらながらに気がついてふと顔を上げると、運転席が目に入った。  ざらざらと音を立てて落ちる雨の向こうの、車の中に黒い影がある。  雨に洗われて隠されている筈のフロントガラスの向こうの男と目が合ったような気がした。  いつでも、どんなときにも落ち着ききった、深い湖のような黒い瞳と。 「―――――っ!!」  喉の奥がかっと熱くなった。  初めて会ったときから憎かった。  あの瞳が、自分たちを引き離す。 「・・・蒼?」  不安げに見上げる征司の襟もとに両手をかけて、左右に大きく引っ張った。  布の切り裂かれるような音とボタンがボンネットにあたった音が聞こえる。  反射的に身を起しかけた征司を体重をかけ直して押さえつけ、首から耳を唇と舌でねぶる。 「いや!!やめ・・・」  小刻みに震える体を強く抱きしめながら言った。 「なあ・・・。こんな身体で、俺なしで生きていけるのかよ」  胸元に手を差し込むと背中をそらせる。  クリームのように白く、触れれば吸いつくような肌は熱く、うっすら赤みがさしていた。 「そう・・・」 「こんなに感じ易い身体で…」  むき出しにした肩に噛みつく。 「どうやって、これから生きていくんだよ…」  ぐい、と股間を合わせた。 「こんなに、ここで、俺を欲しがっているくせに」 「―――――っ!」  朱に染まる耳たぶを舐めて問う。 「俺がいなくなったら、あいつに抱いてもらうつもりかよ?」  がっ、と、かつてない力で胸をはじき返された。  気がつくと、お互い立ち上がり、向き合っていた。
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