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「いいよ、僕が行く」
フロントガラス越しに睨む蒼から目を離せないままシートから身を起こす。
「…別の場所を設けましょうか?」
「いや、その必要はない。・・・ごめん。来るのはわかっていたんだ」
「いえ、それは。・・・私も解っていましたから」
「・・・そう。そうだよね。ごめん」
これから財界のパーティーへ向かうにもかかわらず、ネクタイを外して襟元を緩めている段階でそれを予告しているようなものだった。
「雨が降ります。私が車から降りますから、どうぞお二人は中に・・・」
「そしたら、きっと、蒼が車を乗っ取るよ?」
「――――――!」
ふいに笑いがこみあげてきた。
このところの蒼の行状は常軌を逸したものだったから、全く洒落にならない。
今の蒼ならやりかねないだろう。
「悪いけど、このままここで待っていてくれないかな」
高遠がここにいることで、自分と蒼に少しは抑止力がかかるような気がした。
・・・彼を立会人にするつもりは、なかったのだけど。
「雨が降っても、風が吹いても、・・・蒼が僕に何をしても、ここにいて」
ぽつん、とフロントガラスに水滴が一つ落ちた。
「すべてが終わったら、必ず戻るから」
「・・・わかりました」
ドアに手をかけ、外へ出る。
背筋を伸ばすと、湿度を帯びた生温かな風が乱暴に髪をかき混ぜた。
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