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好きだ、好きだ、好きだ…。
どうにもならない、八方ふさがりの熱が胸の奥をちりりと焦がす。
涙が後から後から零れていく。
「泣くな…!」
ふいに足元がすくわれ、気がつくとボンネットの上に乱暴に押し倒されていた。
「いや…、やめて」
首を振って抵抗を試みても、のしかかる蒼に難なく抑え込まれ、更に後頭部を掴まれ深く唇をあわされてしまう。
蒼はまるでとりつかれたかのように征司の唇をむさぼり続けた。
背中や首の下を滝のような雨水がさらさらと流れて行くのを感じる。
ボンネットを打楽器のように叩く雨粒のしぶきが頬に跳ね返る。
それらが、征司を現実へと呼び戻した。
「そう・・・」
唇と唇の間の、切れ切れの息の中で声を絞り出す。
「お願いだから・・・!」
頬を伝う涙が、止まらない。
我に返ったかのように唇を離した蒼が顔を上げて前方を凝視する。
「―――――っ!!」
ふいに、瞳の中に凶暴な光がともった。
「・・・蒼?」
思わずかけた声が引き金になったのか、急に襟元に手をかけ、そのまま無理やり開かれる。
布の切り裂かれるような音とボタンがボンネットにあたった音が聞こえ、悲鳴をのみこんだ。
むき出しになった鎖骨や胸板に直接雨粒が叩きつけられて身をよじるが、蒼が全体重をかけてのしかかり、首から耳に舌を這わせてくる。
先ほどの蒼とは何かが違う。
「やめ・・・」
全身に震えが走った。
「なあ・・・。こんな身体で、俺なしで生きていけるのかよ」
胸元に落ちる息はとても熱かったが、征司の心の底に冷たい刃が突き刺さる。
「そう・・・」
「こんなに感じ易い身体で…」
むき出しの肩に強く噛みつかれた。
「どうやって、これから生きていくんだよ…」
ぐい、と股間を合わせてきた。
「こんなに、ここで、俺を欲しがっているくせに」
隠しきれない互いの欲望がそこにあった。
「―――――っ!」
こんな時にでも感じてしまう自分を、これほど疎ましく思ったことはない。
「俺がいなくなったら、あいつに抱いてもらうつもりかよ?」
アイツニダイテモラウ・・・?
蒼の嘲りの言葉は、頬を拳で殴りつけられたような衝撃だった。
気が付いたら渾身の力で胸を押し返していた。
地に足が付いた途端、頭の中の霞が取り払われたような気がした。
驚いたように目を見開く蒼を見つめて名を呼ぶ。
「蒼」
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