9人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
陶器のように綺麗な眉間にしわを寄せて征司は言う。
「僕たちは終わったんだ」
「終わってなんかない!!」
乱暴に肩を掴んだ。
「勝手に終わらせるなと何度も言ってるだろう。俺たちは離れちゃいけないんだ」
「もう、無理だよ。蒼だって良く解っているだろう?このまま続けていても、蒼の未来がめちゃくちゃになるだけだ!!」
「そんなの、その時にならないと分かんないだろう?勝手に俺のことを決めつけるよ!!」
「決めつけてなんかない!!事実だろう!!」
ぽつり、ぽつりと落ちてきていた大粒の雨が、やがて一斉にぱたぱたと互いの体を叩き始める。
「蒼、ここの所全く研究室へ顔を出していないだろう?教授からの電話にも出ないで何してるんだよ、・・・今が一番大事な時なのに」
「お前以外に大事なものなんてあるか!」
手首を掴んだらまた振り払われる。
「それだから、だめなんだよ!!」
ざーっと、木々の葉が雨に打たれて音を立てるのをどこか遠くで聞いているような気になった。
「大学にもいかずに、こんな無茶なことばかりして…。この前も大叔父たちにあんなこと言って、ただで済むわけがないんだ。今の蒼は無鉄砲すぎる…。何も見ないで突っ走るだけの、考えなしの馬鹿だよ!!」
降りしきる雨と征司の言葉に体温が下がる。
「なんだと?もういっぺん言ってみろよ…」
「何度でもいうさ。毛利たちの気遣いも教授の心配も何もかもぶち壊しにして、それで何を得るんだ?何もないじゃないか!君の子供っぽさに、もう、うんざりだ!」
思わず手が出る。
ぱしんと、音がして、征司は驚いたような顔をして頬を抑えた。
「あ・・・」
「蒼・・・」
殴ってしまったのは今回が初めてじゃない。
逃げる征司を引き留めたくて、それ以上のことを何度もしてしまった。
抱きしめてもどこか霞のようにぼんやりと掴みどころのない征司の生身の声を聞きたくて、何度も何度も心と身体を切り裂いた。
涙を流されても、悲鳴をあげられても、止められなかった。
自分の中の獣が征司を欲しいと吠える。
どんなに力で抑えつけても、どれほどの血が流れても、芯が見つからない。
空しさだけが手のひらに残された。
最初のコメントを投稿しよう!