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至宝五月とTCG 【ノエシス】
☆別天神社境内家宅
「んー……もう、朝……?」
少女、至宝五月は掛けられたカーテンの間から射す陽光にうっすらと瞼を開くと、のそのそと上体を起こし、一つ伸びをする。自室は六条。特筆すべきは【トランスデューサーポット】と呼ばれる機器と部屋中に散見される怪しげな本や呪具だろうか。
「懐かしい夢を見たような……」
五月は夢をの余韻が抜けぬまま目覚し時計を視界に捉えた。五月五日(木曜)七時十五分学校のHRには、まだ余裕がある。
「ふわぁぁ」
(木曜日……今日も学校かぁ)
五月は欠伸をし緩慢な動作で着替えにかかった。身支度を整え、左腿にTCG(トレーディングカードゲーム)【ノエシス】のデッキと挿入口にスマートフォンのセットされた専用のポーチを巻く。
そして(縁に杭が打ち付けられ、そこに使い道の分からない水ヨーヨーが垂れ下がっている)鏡台の鏡を五月は確認した。子柄な体躯に中学生らしいあどけなさを残す整った容姿に黒めがちな瞳にセーラー服。
(もうちょっと背丈が欲しいなぁ……)などと考えながら艶の良い黒髪を簡単に撫で付け、何故か【垂涎PSI】と書かれた緋色のハチマキで髪の一束を掬い、ハチマキを蝶結びにして括る。
※【PSI】……ESP《超感覚的知覚》とPK《念動力》の総称。つまり超能力。
※【垂涎】……あるものを入手したいと切望すること。
(PK特訓用のスプーンをポッケにしのばせてっと)
ガーベラの花の栞を鞄に入れ──
「良し、身支度完了!」
五月はそのまま洗面所へ移動し、顔を洗い、歯を磨くと居間へと向かった。
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