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「もう放して、穂高さん。俺からも穂高さんにしたいことがあるのに、いつまで経ってもそれができないじゃないか」
「ん……」
名残惜しげに手放してくれたのを確認し、それをいそいそしまった。
それから穂高さんの身体に、ぎゅっと抱きついてあげる。そのままゆっくり首筋に顔を埋めて、肩根にがぶりと咬みついた。
「くっ、ち、あき……」
切なげに声を上げながら、俺の背中をかきむしる穂高さん。
次の瞬間、ぶわっと上がった体温が伝わってきて、寂しさに拍車がかかってしまった。もう暫くこの温度も匂いも、感じることができないんだって改めて思わされた。
「……行こうか、穂高さん」
体をそっと起こして穂高さんを引っ張り上げ、シャツのボタンを留めて、咬み痕が見えないようにしてあげた。
「抱きたい……」
ボタンを留めていた手を握りしめて、言って欲しくないことを平気で口にするなんて、本当に酷い恋人だな。俺だって、おんなじ気持ちなのに――ずっと傍にいて、離れたくはないのに。
「それを断る俺のこと、ちょっとだけでいいから考えてください。お願いだか――っ」
お願いすら聞く耳持たずで、いきなりくちびるを塞ぐなんて、本当に困った恋人だけど大好きなんだ。俺のほしいものを瞬時に嗅ぎとり、すぐに与えてくれる、すっごく愛おしい人。
「さぁ千秋、行こうか」
離れがたい気持ちが一緒だからこそ、分かり合える気持ちがそこにある。それと一緒に愛されてるなって想いも感じとることができるから、すっごく幸せだ。
返事の代わりに、強く手を握りしめてあげた。そのお蔭で笑顔のまま、島を出ることができた。
皆に見送られながらフェリーに乗って本州に渡り、その後は新幹線に乗車して自宅に帰った。漁協でのバイトが思いのほか高収入だったので、思いきって新幹線に乗ってしまった。
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