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「島に馴染んでしまった体を、こっちに合わせなきゃならないし、疲れを溜めたくなかったから楽させてもらちゃったな……。それにしても、思っていたよりも蒸し暑いや」
夏休みも残り3日を残すだけ。この期間を使ってバイト先に顔を出して、お土産を渡したり大学のレポートの最終チェックをしたり、あとは――。
「……あれ竜馬くん?」
俺が住んでるアパート前の電柱に持たれかかり、目をつぶっている彼がなぜだかそこにいた。街灯の明かりでその姿をしっかりと確認できたんだけど、どうしてここにいるんだろう?
「おーい、竜馬くん」
首を傾げつつ声をかけながら手を振ってあげたら、目が合った瞬間に嬉しそうな表情を浮かべて、走り寄って来た。
「アキさん、お帰りなさい!」
「わぁっ!?」
背中に背負っている大きなリュックごと、ぎゅっと抱きしめられて、ビックリするしかない。
「無事に……無事に帰ってきてくれて良かった。ホントに良かった」
「う、うん。大丈夫だったよ。帰りは豪勢に新幹線使っちゃったし、普通に無事なんだけど」
竜馬くんの言葉に、思わずたじろいだ。まるで俺が戦地にでも赴いていたようなセリフみたいで、何と言っていいのやら。上手い言葉が見つからないよ。
困ったのはそれだけじゃなく、ずっと抱きしめられたままだったから。
穂高さん以外の人にこんな風に抱きしめられてしまうのは、かなりの抵抗があった。たとえそれが友達との感動の再会だとしても、これを見たら絶対に恋人を不快に思わせてしまう行為になる。
「あのね竜馬くん悪いんだけど、ちょっと苦しいな。離れてくれると呼吸がしやすくなる」
「ゴメンなさい、アキさんの顔を見たら嬉しくて」
「あ~、俺ってば頼りない先輩だから、ムダに竜馬くんを心配させちゃったかな?」
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