62人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうそう。千秋には恋人がいるんだ、諦めなよ。俺が君を慰めてあげる。千秋のようなズブの素人よりも、すっごく気持ちいいコト、いろいろしてあげるよ。ねぇ……」
傍でふたりを見てる俺が、なぜか赤面してしまった。藤田さんの言葉のアクセントのひとつひとつが、どこか扇情的に聞こえてきてドキドキが止まらない。
なのに竜馬くんは表情を一切崩さず、下唇を噛んで藤田さんの腕を振り解くなり、俺に向かい合った。
「アキさん、恋人って赤い車に乗ってるヤツなのかな?」
「…………」
言わなきゃならないよね。友達に男と付き合ってるのを知られた時点で、いつかこんな日がくるかもってどこかで分かっていたハズなのに、躊躇してしまうなんて情けない。
それだけじゃなく、竜馬くんは俺を好きだと言ってくれた。友達としての好きじゃない、恋愛対象としての好き、だよね――でも俺には穂高さんがいるんだ、しっかりと断らないといけない。
「竜馬くんゴメンね、その通りなんだ。その人と付き合ってる。夏休みも彼のところに行ってた。だから」
言い終らない内に、顔を背けて走り去って行く。その後ろ姿を、藤田さんとふたりで眺めた。
「……千秋、話がある。疲れてるトコ悪いけど、車に乗ってくれ」
眉間にシワを寄せたまま身を翻すように車に乗り込む藤田さんを、必死に追いかけた。
(話って一体、何だろうか? 穂高さん絡みのことかな? それとも今の――?)
複雑な心境を抱えたまま助手席に座ると、静かに車を発進させる。
連れられたのは、近所にあるファミレスだった。
最初のコメントを投稿しよう!