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誰かに迎えにきてもらいたいけれど、この時間、親は仕事でいないし、弟はあてにできないし。仕方がない。走って帰るか……。
私が迷っていると背後で音がした。
振り返ると、ひとつ隣の下駄箱前で同じ中学だった佐藤くんが靴を履き替えているところだった。一瞬、目があったので私は、すぐにそらした。佐藤とは嫌な思い出がある。
「なに、田中、誰か待ってンの」
佐藤が話しかけてきた。仕方なく私は、答える。
「傘、盗られたみたいでないの。どうしよっかなって思っていたけど、止みそうにないし、走って帰るしかないね」
私は、はははと苦笑いしてそう答えた。佐藤と口をきくのは久しぶりだ。私は、ちょっと期待した。ひょっとしたら、途中まで一緒に傘に入れていってもらえるかもしれないと思ったのだ。だが、佐藤は、
「ふうん」
と、だけ言い、折りたたみ傘を広げ行ってしまった。私は、落胆したがすぐ気を取り直し改めて走って帰ろうと思った。夏服になる前で良かった。夏のセーラー服だったら濡れると透けて下着が見えてしまっただろう。
まずは、校門を出てすぐのパン屋を目指す。パン屋の軒先でいったん休み、またダッシュで次は、その百メートル先にあるドラッグストアの軒先を目指すつもりだ。
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