私が死んだ理由

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ここは天国だという。 見た目は通常の社会と何ら変わりがない。 空もあれば、地面もある。 現世となにも変わらない暮らし。 ただここを統治する政府があり、機関として常時その目を張り巡らしている。 その監視力を気にしなければ、ここは実にいい世界だ。 働きたいものは働き、働きたくないものはそれでも生活が保証されている。 夢のような世界。 だが、時折ここから人がいなくなる。 なんでも彼らはあることを政府に問いたいのだとか………… ※※※※※※※※※ 『私が死んだ理由はなんなんですか!』 囚人が叫ぶ。 だが、その声はどこにも届かない。 天国での生活は磐石だった。 ただ一つ、前世にこだわらないというルールさえ守れれば…… 自分には前世があるのかもしれない。 その可能性につきまとわれる異分子は案外多い。 『教えてくれ!私は誰だったんだ!どういう生活を送っていたのだ!私は……』 むなしくその声だけが響いた。 ※※※※※※※※※ 私が死んだ理由。 そんなものは、この天国では意味がない。 単純に死に行く魂の数を考えても、それら全員分に前世の記憶を持たせるなど、秩序崩壊のもとだ。 ここでも家族があり、生活がある。 もし前世を取り戻して、今の家庭をぶちこわしたら? 死んだ瞬間に悔いがあって、それを晴らすために勝手なことをして回られたら? せっかく今ある天国の生活を用意しているのだから。 『私が死んだ理由?』 さあ、なんだろうね。
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