影が響いた世界

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 初めて、人の不幸を願ったのはいつのことだろう。人の幸福を祈れなくなったのは、いつのことだろう。  自分の世界が全てで、それしか見えなくなって、見れなくなって、見て見ぬふりをして。  そうやって、一人で孤立を始めて、孤独に終わる。自己完結な世界に囚われている。  逃げたかった。誰かに影響されて、影響を与える、与えてしまうこの世界から。  電話の音が、声が、けたたましい音を立てていた。僕は、それを取らずには居られない。取らなければ安息は無い。  声が聞こえた。 「人に囲まれたい。人気者はきっと楽しくて輪の中心に居られて、寂しくなんか無い」 「独りになりたい。一人は楽で、複雑な人間関係に煩わされることもなく、自由に生きれる」 「夢を叶えたい。どうしても追いかけたい。」 「夢を諦めたい。もう追いかけるのは疲れた」 ……。 「幸せになりたい。それで周りの人も幸せにしてやれるくらい幸せに」 「不幸せになりたい。個人の幸せは周りの個人の幸せを無くす」 「生きたい。やりたいことも、叶えたい夢もある。希望に溢れて生きていたい」 「死にたい。得体の知れない何かに追い回されて、辛いことばかりで、止めたいことばかりで……」  僕はもうこりごりだった。 「ねぇ。君は、結局何をしたいの?」 「人っていうのは不思議な字だと思うんだ」  唐突に何だというのだ。 「あれって、人というの支え合うだの、支えるだの、乗っかるだの言うけど、言えるのは一つだと思うんだ」  僕は押し黙る。僕はこの続きを知っている。 「人というのは、関わることなんだよ。色々なものにね。」 「それが何だというんだ!!」  僕は叫ぶ。喉が、空気が、震えた。 「誰も助けられなかった。助けたと思ったら不幸にした。誰も助けてくれなかった。苦しんでいたのに見て見ぬふりをされた。悲しかったのに!寂しかったのに!」  頭が痛い。日が長い影を作り、影の深さは増すばかり。  静かな数秒の後、優しく世界が震えた。 「でも、悲鳴を上げ無かったでしょ?「助けて」を言葉にしなかったでしょ?僕に言っても駄目だよ。言わないで分かって欲しいだなんて傲慢の極みだ。悲鳴を、叫びを、上げないと。きっと関わりは、人は、そうなんだ」  電話越しで彼が笑うのが分かった。 「叫べ、そうしないと伝わらない」  そうして、僕は諦めて生きることになる。  ここじゃない何処かで俺が叫んだ。
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