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『花折々』: 或る、住宅街の朝
通学路、朝 7時45分。
毎日あなたはここで立ち止まる。
家のチャイムを二回鳴らして、あの子が出てくるのを待っている。
電信柱にとまった、小鳥を眺めたり、朝露に濡れる庭の花を見たりして、あの子のことを待っている。
そんなあなたと、目が合うのは、
わたしがあなたを見ているからか、
あなたがわたしを見ているからか、
自惚れるのは止しますね。
そう、わたしがあなたを見ているから
そうしてあなたはただ、あの子の家に蔦を絡める花を見ているだけなのだから。
あの子が出てくるとあなたはとっても嬉しそうに笑う。それはまるで花が綻ぶように。
あなたとあの子はただの友達。だけれどあなたにとっては、違うのでしょう。
あなたの心には、きっと別の感情が芽吹いている。
わたし、わたしは…
小学生の時にあの子と出会ってから、ずっとここで『一年』を繰り返しています。去年のわたしといまのわたしは違う、そうして来年のわたしはきっと、今のわたしとは違うのでしょう。
一年ごとに芽生えてはやがて消える、これを『自我』なんて格好のいい言葉で言い表すつもりはないけれど、わたしはどうすることもできません。
それがわたしの毎日で、これからも続く毎日なのだから。
去年のこと、一昨年のこと、もっともっと前のこと、感情や記憶なんてどこにもなくて、あるのはただ、無機質な記録。
小学校の理科の授業、あの子がひとつぶの花の種を手にした時から始まった記録。
白、黄、赤、橙色、紫、
色んな個性を持つ私たちのなかで、わたしが得意なのは青でした。
ヘブンリーブルー、そらの青。
あの子は花の手入れがとっても上手で、毎日水をくれました。
だから今年も、とうとうわたしは花を咲かせた。
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