『花折々』: 或る、住宅街の朝

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わたしは朝顔、あの子の家に蔦を絡める。 そうしてわたしはあなたが好きよ。 六月のおわり、雨の日にあなたが わたしが知るどんな青空よりもずっと、わたしの蕾の中に閉じ込めた青よりもずっと青い傘を差しかけて、ちいさく微笑みかけてくれたその日から。 わたしは朝顔、きっと今日の夕方には醜くしおれて枯れてしまう。 この花びらに閉じ込めた青も、日が傾き始める頃には、赤紫へと変わってしまう。 あの雨の日にあなたがくれた、空の青が変わってしまう。 だからどうか、今のわたしを見てください あなたがくれた空の色を、 あなたの青い傘の色を、 たったいちどの、わたしの色を。 わたしがバラやガーベラだったら、あなたがあの子へ思いを伝えるために、この身を手折って差し出したのに。 だけれど、わたしは朝顔で、儚い恋しかできません。 さよならあなた、真夏の日照りに照らされて、 わたしは空に、なれるかしら。
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