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第ニ 歌手になりたいと思った事がある
「あっ」
耳元には少し前にTVCMで使われていた曲が流れ始めた。
その曲は老若男女問わず色々な人が聞く曲だった。
自分も初めて聴いた時は直ぐに気に入った。
楽しげなテンポと明るいリズム、なんと言ってもサビの盛り上がりの部分は心が踊ったものだ。
しかし、最近はイヤホンからその曲が流れてくれば次の曲へスキップする様になった。
その曲は自分の中では死んだのだ。
あんなに何度もリピートして聞く程の曲も月日が経てば飽きて聴かなくなるのだ。
こればかりは自分のみの話では無いだろうと今は思う。
きっと現在カラオケで歌う人などほぼいないだろう。無論自分も歌わない。
つまり、今流行る曲というのは
『今流行っているだけの曲』にしかなっていないのだ。
誰もその曲の良さなど分からない。他人が好きだから自分も好き。
そういえば昔に歌手になりたいと思った事がある。
ギターやベースは弾けない。歌だって上手くない。
ただ、歌手になりたいと思った事があるだけだ。
昔の自分は何かを届けたかったのだろうか。
今絶望している人に希望を届けたかったのだろうか。
それともただ、有名になりかったのだろうか。
分からない。
ただ、歌手になりたいと思った事があるのだけは事実だ。
歌手になりたいと思った事がある。
気がつくと流行りの曲は終わりスマートフォンからは次の曲に切り替わる画面が見えた。
耳元では子供の頃好きだったアニメのオープニングテーマが聴こえてきた。
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