たわけもの

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「菊!」 竹林の中に 信長の声が響いてくる。 「何をしておる?」 草を分けて 雄雄しく進んでくる信長の姿は 菊でなくても おなごであれば誰でも 惚れ惚れするような姿であった。 「はあ  お花が咲いていたもので」 菊は頬を赤らめながら答えた。 しゃがんだ菊の周りには たくさんの銀梅草が生えて 菊の姿を より一層美しく引き立てていた。 信長は、菊の美しい姿に 目を細める。 『なんと! 美しい。 そなたは その花のごとく美しい。 誠に花のような  おなごじゃ』 「花とな。 お前は  まっこと、花が好きよのう」 菊の目の前に来ると 信長はしゃがんで  ぐいっと 持ってきたホタルブクロを  差し出した。 「やる」 「私に? ありがとうございます。 ……綺麗」 菊は信長に手をとられ一緒に立ち上がった。 しばらく、菊はホタルブクロを眺めていたが やがて信長を見上げた。 「あの  信長様。 私を助けたのは  確か  ここでしたよね?」 信長は、溜息をひとつついた。 ーーーまた その話とな 「ああ、間違いない。 ここじゃ。 ここで 倒れているそなたを見つけたのじゃ」 信長は言いながら  さも面白く無さそうに 辺りの草を 引き抜いては  乱暴に捨てていた。 「何か 私の身元がわかるものが あればいいのですが」 菊は地面を見渡した。 「よい! そんなもの…… 無くても良い!」 怒った様に  大声をあげる信長。 菊の顔をじっと見てから 菊の両腕を  がっしりと掴んだ。
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