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 本橋水緒が複雑な家庭の子と知ったせいか。岸先生の冷淡さのせいか。  僕はあんな目に()ったというのに、水緒の力になれないかと悩むようになった。  ただし、(よこし)まな下心は皆無だと言い切る自信はない。  だから、岸先生に水緒が補習に現れないことも伝えられずにいる。全欠席の生徒もいるのに、なぜ彼女だけを気にかけるのか問われそうで怖かった。  他の先生に聞いて知ったのだが、水緒は中学2年まで岸先生と暮らしていたらしい。母子仲がこじれて父親に親権が移ったような話だ。 「中2といえば思春期だし、反抗や反発で親との関係が悪くなるのは珍しいことじゃないわ」  定年間近の先生は、わけ知り顔でそう言ったが、そんな単純ないきさつではないような気がする。  難しい年頃という理由はもっともらしいが、そんな一過性のすれ違いとは違う、根深い何かがありそうな気がする。  思春期で反抗した娘を、姓まで変えて父方に親権も身柄も移すというのは普通じゃない。わざわざ母親の勤める底辺高校に入学して、身を(けが)してまで問題を起こすというのも、当てつけにしてはやり過ぎだ。 「僕が出しゃばることじゃないか……」  本当に力になれるかわからないのに、不用意に近寄らない方がいいような気もする。  何も行動出来ないまま時間は過ぎ、数日後、補習は最終日を迎えた。
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