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3、
本橋水緒が複雑な家庭の子と知ったせいか。岸先生の冷淡さのせいか。
僕はあんな目に遭ったというのに、水緒の力になれないかと悩むようになった。
ただし、邪まな下心は皆無だと言い切る自信はない。
だから、岸先生に水緒が補習に現れないことも伝えられずにいる。全欠席の生徒もいるのに、なぜ彼女だけを気にかけるのか問われそうで怖かった。
他の先生に聞いて知ったのだが、水緒は中学2年まで岸先生と暮らしていたらしい。母子仲がこじれて父親に親権が移ったような話だ。
「中2といえば思春期だし、反抗や反発で親との関係が悪くなるのは珍しいことじゃないわ」
定年間近の先生は、わけ知り顔でそう言ったが、そんな単純ないきさつではないような気がする。
難しい年頃という理由はもっともらしいが、そんな一過性のすれ違いとは違う、根深い何かがありそうな気がする。
思春期で反抗した娘を、姓まで変えて父方に親権も身柄も移すというのは普通じゃない。わざわざ母親の勤める底辺高校に入学して、身を汚してまで問題を起こすというのも、当てつけにしてはやり過ぎだ。
「僕が出しゃばることじゃないか……」
本当に力になれるかわからないのに、不用意に近寄らない方がいいような気もする。
何も行動出来ないまま時間は過ぎ、数日後、補習は最終日を迎えた。
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