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「ねぇ、先生って童貞?」  本橋(もとはし)水緒(みお)が口にした言葉の意味を理解するのにかかった時間は約5秒。  漢字テストを解いている彼女の目は僕なんか見てなくて、物憂げな表情でシャーペンを動かしカリカリ小さな音をたてて解答欄を埋めている。  2人しかいない教室は窓の外の雨音に包まれ、真夏なのにひんやりした空気の中にあった。 「早く答えてよ。あたしはこんなにいっぱい答え書いてるのに納得いかないんですけどぉ」  語尾を引きずるようにのばし、水緒は手を止めて上目遣いに僕を見上げた。 「テストの答えと先生のプライバシーは同等じゃないだろ」  女子高生ごときに舐められては困る。  僕はわざとぶっきらぼうに言って、腕組みをした。 「ふうん……童貞なんだ?」  水緒はうっすら笑いをまとった言葉で僕を(あざけ)った。
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