0.その話、ノってやるよ

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『ありがとう、三人とも。…それじゃ、早速だけど、今から君たちの身体を向こうの世界…べーテンに再構成するよ』 『あちらに行けば、お前たちは賢者の力を手に入れているが…何か特別なことをしなければならないわけではないからな。好きに生きてくれて構わない……しかしいつの日か、然るべき時が来るかもしれない。その時はその力を、世界の平穏の為に貸してほしい』 「…ああ」 「はぁい!」 「わかりました」 グレンの言葉は、三人の心を少しだけ軽くした。 〝賢者の力〟なるものを継承するということは、何か…その力の以前の持ち主のように、何かやり遂げなければいけない大きな使命があるのではと内心不安だったのだ。 三人の表情が少しだけ明るくなったのに、グレンも安心したように微笑んだ。 『それじゃ、いくよ。次に目が覚めた時が、君たちの第二の人生の始まりだ……楽しんでくれ』 パツィが右手を掲げ、ゆっくりと水平に動かす。 瞬間、真っ白な光が弾け……それが収まった時、三人の姿は消えていた。 『…上手く、いったかな。おまけも付けたし、彼らは大丈夫だと思うよ』 『ああ…悪かったな、パツィ。俺の我儘に付き合わせて』 一仕事を終え、ふう、と安堵のため息を吐いたパツィに、グレンが申し訳なさそうに眉を下げる。 パツィは笑って首を横に振り、グレンの肩をぽんと叩いた。 『謝らないでよ。これはボクも望んでいたことなんだ…ボクは割かし、君の生まれたあの世界が気に入ってるんだよ』 『…ありがとう』 『さ、執務室に戻って見守ろう。彼らと、世界の行く末を。君が守ったあの世界を…さ。…グレンツェン』 『……その名前は、お前のところに来た時に捨てたさ。今の俺はただの〝グレン〟だ』 『いいんだよ。ボクにとって君は、いつまでも英雄のままだからね。…さ、行こうか』 『…ああ』 二人がくるりと踵を返す。ゆったりとした衣服の裾がゆらりと揺れた瞬間、そこには二人も、真っ白な空間も、何一つ残ってはいなかった。
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