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「なかなか雅さんもヤリますね」
「…えっ、何のこと?」
話しながらも『中へどうぞ』と
手振りで示すと森嶋くんは後ろ向きで
靴を脱ぎ、リビングへと入って行く。
「なんだ、言ってくださいよ~。
営業部の番匠さんかあ。
旦那さんが亡くなって、3年でしたっけ。
もう次の男がいてもイイ時期ですよね~」
「うわ、違う違う違う、誤解しないでよ」
慌てて私は弁解する。
芳が亡くなり、
経済面で不安になった私が
引越しを検討していたところ、
光正がここを薦めてくれたのだ。
会社へ乗継ぎ無しの電車1本で行けて、
しかも近所には小学校やスーパー、
病院なども揃っている。
既に光正が別階に住んでいたので
周囲の目など色々と懸念されたが、
それ以上に家賃の安さが魅力的だった。
「だから番匠さんとは付き合っていない。
単なるご近所さんなだけだから、
おかしな噂は流さないで」
「でも俺、知ってますよ。
昔、番匠さんと死んだ旦那さんとで
雅さんのことを奪い合ってたって。
…別にいいじゃないですか、
不倫じゃあるまいし。付き合っちゃえば」
カタンと物音がして
光正が戻って来たかと思うと
そのままL字型ソファの端に腰を下ろし、
柔らかく微笑みながらこう言った。
「森嶋くんはまだ若いなあ。
…人の感情はね、
そんなに上手く割り切れないんだよ」
その言葉は、
軽いようで深く深く私の心に沈んだ。
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