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驚くべきは、その手際の良さだ。
一緒に並んで歩いていたはずなのに、
いつの間にかさり気なく背後から
手を回されていて。
そうとは意識していないうちに、
路地裏へと誘導されており。
気付けば自販機の陰に隠れ、
向かい合わせで立っていて。
軽い笑みを口元に浮かべたかと思うと、
次の瞬間、唇が触れていた。
こんなのパニックになって当然だ。
あまりにも久しぶり過ぎるその行為に
なぜか芳の姿が脳裏に浮かび、
それでようやく冷静になった。
…ああ、こんなにも違うんだ。
心のこもったキスと、
そうじゃないキスはこんなにも違う。
>雅、本当に愛してるよ。
>どうかどうか、幸せに…。
芳、やっぱり私は
貴方のキスじゃないと反応しないよ。
芳、逢いたい。
逢っていろいろ話したいのに。
でもそれは叶わないことなんだよね。
まるで条件反射のように
涙がボロボロと零れてくる。
何年経っても変わらない。
私が芳を想う気持ちは、
一向に薄れる気配が無いようだ。
「…なんで泣いてるんですか?」
「森嶋くんになんか教えない。
っていうかさ、意味不明なんだけど」
「意味不明?」
「そうよ、なんで私にキスしたの?」
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