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麗らかな春の日差しを浴びながら、愛留は川沿いの小道を進む。天気がいいので髪をさらう風が心地いい。
今日は大学の講義が午前に集中していたので、昼食後はすぐにキャンパスを出た。少しだけ散歩をしたらスーパーに寄って、帰宅後は夕方まで録画しているドラマを観てのんびり過ごすつもりでいる。
今日の夕食はなにを造ろう。久々にパスタが食べたいが、夕食に出すと同棲している恋人が「もっとガッツリしたものが食べたい」と言いだすかもしれない。
思考を巡らせながら歩いていると、正面に知った女性を見つけた。パンツスーツ姿の彼女は栗色のショートヘアを靡かせながら、小走りになる直前の早歩きで近付いてくる。
「こんにちは」
目の前で立ち止まった女性は社交的な笑顔を浮かべているが、挨拶する声はどこか切羽詰まっていた。彼女は愛留の恋人である優の姉、恵だ。
意外な人物との遭遇にほんの僅か驚きながら、愛瑠も笑顔を返す。
「こんにちは。お久しぶりです。優に会いに来たんですか?」
優は大学入学のために、三年前に田舎から上京してきた。入学後半年で優と愛留は交際を始め、互いに一人暮らしをしていたが、二ヵ月前から愛留が優の部屋に転がり込むかたちで同棲を始めている。
二人で暮らすアパートの近所に実家暮らしの恵が現れたので、てっきり弟に会いに上京してきたのかと思ったが、
「いいえ。違うの」
恵はやけに神妙な表情で頭を振った。そして突拍子もない言葉を口にしてくる。
「私はある事件の謎を解明するために、一年後の未来から来たの」
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