1、茶店の駄目男(だ・めんず)マスター

1/30
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ

1、茶店の駄目男(だ・めんず)マスター

この世に生れ落ちるとき 神様はどんな風にしてこの人の元へこの子を送られるのだろう。 子供は、親も、その生まれた環境も、選べるわけではない、ただ遺伝子レベルで生まれ落ちた者たちは、どこで、何をしようとも、生きるすべを失っているわけではない。 すべての生命は、その瞬間、この大気を体いっぱいに吸い込み。 その歓喜を泣くことで表す。 だが産み落とした者たちは、安どの表情を浮かべ、次の瞬間その子を抱き思う。 この子の行く末は…… 幸せか 不幸か いや、裕福か、貧困か 願うことは、ただ、生きてほしいと 幸せに生きてほしいと そう思ってくれる母であってほしい。 そう思ってくれる父であってほしい。 「いらっしゃいませ」 カランカランとドアが開くときれいな音色が響いた。 目に青葉か、でも俺の心はどんより早くも梅雨空。とはいえ、まだ四月だっていうのに、外は汗ばむくらいで桜なんかとうの昔に咲き終わった。 笑顔で接客なんかしてられるか。客は嫌そうな顔をして、ブレンドと言ってテーブル席に座った。水を出し。 「お待ちください」 と言う。 又客が入ってきた。 いつも来る女子高生二人と男子一人が俺の前に座った。 「いらっしゃい」 「無愛想」 「もっと笑えばいいのにー」 「それ出来ないよね、きゃはは」 と言って笑われた。 こいつらも仲がいいよな。こいつはどっちの子の恋人なんだ? いつも思う。 ただ、いまはそんなこと考えたくもない。 なぜなら 一時間前、俺は失恋した。 「すべてがうまくいく人生なんて聞いたことがない」だからー、仕事すりゃいいんだろ? 「人生は勝利。何事にも勝たないと何の意味もないの。だから努力するんでしょ!」 女はそう言うと金をたたきつけて 「さよなら、お金は空からは降ってこないの、死ね!」 「死ねはねえだろう」 「さようなら、追いかけてこないでよね」 そう言い残して出ていきやがった。 努力。 はー、なんにもしたくない。 黙っていても三食の飯が出てきて、好きなことを一日して。 掃除も洗濯もだれかがしてくれる、夜は好きな時???ができればいい。そんな生活・・・期待してた俺がばかだった。 期待か―、あいつは結婚の二文字に期待したのか。 楽して―な あるじゃん そっか、犯罪者、刑務所に入ればいいんだ。 でもな、我慢するのがな。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!