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そして今日が来た。
「あなた、ごめんなさい。
あたしは・・・あたしは・・・」
『いい。分かってる。
ありがとう。寛子には感謝しかない』
「母さん、ごめん。少し二人だけにさせてくれないか?」
「え?うん」
寛子は病室から出ていった。
「親父、ごめんな」
『お前が謝る事は何もない』
「ホントは大学なんてどうでも良かったんだ」
『どういう事だ?』
「母さんな、ずっと泣いてばかりだったんだよ。
『どうすればいいの、ごめんね。ごめんね』ってさ。
分かってたんだよな、このままじゃ俺を大学に行かせられないってさ。
母さんが決断すれば俺を大学に行かせられるのにってさ。
決めらんないよな。
なんだかんだ言っても母さん、親父の事好きだったもんな」
・・・
「ごめんな。
親父、まだ生きてたかったよな。
でも俺も母さんも前に進んで行かなきゃいけないんだ。
母さんに辛い決断はさせらんない。
恨むなら俺を恨んでくれよな」
『なんでお前達を恨むんだよ!
俺は、オレは・・・
すまない』
「母さん、美人だからさ。
いつか再婚するかも知んない。
いいよな?
そん時は笑って許してくれるよな?」
『変な男に引っかからないよう見張っといてくれよ』
「もう行くよ。親父、頼りない親父だったけどさ、
親父の事ちょっとだけ尊敬してたんだぜ。
じゃあな」
『お前は自慢の息子だよ』
「では、これから生命維持装置を停止致します」
「あなた・・・・・・」
唇に温かいものを感じた。
「10分ほどで野田さんの全ての生命活動は停止致します。
『ありがとう』
ひとしずく
温かいものが頬をつたった。
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