ひとしずく

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小指の第二関節だけだけど動かせるようになってきた。 何かを伝えられるかも知れない。 病室の扉が開いた。数人の話し声がする。 「はい、先生。それでは明日」 「分かりました」 「親父、オレ大学に行く事にした。 やっぱ夢は諦めらんねぇや」 『え?そうなのか!良かった。 ・・・でもどうやって?』 「あなた・・・・」 「親父、明日、親父の生命維持装置を切らせて貰う。 母ちゃん泣かないでくれ。俺が決めた事なんだ」 左手に温かい物を感じた。タダシが俺の手を握ってるんだ。 「親父。力になってくれ」 そうか。決めたんだな。 俺の命が役に立つなら幾らでもくれてやる。 辛い決断をさせてすまなかった。 「・・・!? 今親父の指が動いた!?」 『だ、ちがうんだ』 「親父、親父ぃ? 聞こえてるのか!? 聞こえてるなら返事をしてくれ」 ダメだ。気づかれちゃいけない。 左手よ、動くかないでくれ! 「タダシ、変わって。 あなた!あなた!聞こえてるの? 返事をしてよ! あなた、あなたぁ!!!」 寛子が左手をきつく握りしめる。 握り返してやりたい。 『寛子、寛子ぉ!』 ダメだ。気付かれてはいけない。 このまま逝くのが一番なんだ。 「気のせいだったのか?」 「お父さんが『いいよ』って言ってくれたのよ」 『寛子、タダシ、すまん』
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