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―――頭でも打ったのか? ぼけっとしやがって。
「あんたのここ、血が出てる」
自分の唇の端を指差して、貴子に気づかせようとする白井。
「あ、あっと。すみません」
頭を下げハンカチを受け取る貴子。
そんな貴子は、エスカレーターが下へついたのも気がつかずにいたために再びよろめいた。
よろめく貴子の腕を掴んで倒れないようにした白井は、腕を掴んだまま貴子をエスカレーターから離れさせると障害物のないフロアの隅の方へ貴子を連れて行った。
「あんた、いい加減にしてくれないか? あんたといると危ない目にあってばかりなんだけど」
頭にきて白井は声を荒げていた。
「申し訳ありません! ただ、もう一度話を聞いていただけないかと思いまして」
「それなら、電話で済むだろう?」
「いえ、直接謝罪もしたかったですし」
「なら、なんで売り場にいたんだ?」
ため息をつく白井。
「ええ、……フロアを見たくなって。見てたらやっぱり、こちらに出店させてもらいたいなって思いました」
貴子の顔は、嬉しげに輝いて生き生きしていた。
うっとりした顔をしてフロアを眺めている貴子に、わざと咳払いをして自分の存在に気づかせる白井。
「仕事の話なら、明日にしてくれ」
「あの、明日の何時にお伺いすれば?」
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