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「仕事以外の話をさせてください!」
「はあ?」
まっすぐに自分を見つめてくる貴子を、半ば放心状態で見る白井。
「少し、よろしいでしょうか?」
デパート内に閉店を知らせる音楽が、静かに流れ始めていた。
―――どうして、こんな事になったんだ?
白井は、目の前でうまそうにビールのジョッキをあける女を冷ややかに眺めた。
「で、思った訳ですよ。世間の女性たちが、みーんなうちの服を着て綺麗になっちゃえばいいのにって」
貴子の頬は、赤く染まっていた。酒のせいなのか、さっきぶつかったせいなのかわからないが、お笑いのコント張りに赤くなってきている。
―――いつまで、この女の夢の話を聞かされるんだ?
「あれ? おかわり頼みましたっけ? 私」
「頼んだか頼んでないかもわからないなら止めておけ。飲みすぎだ」
和風居酒屋の座敷。
仕事帰りのサラリーマン達で結構繁盛していた。
あぐらをかいた白井は、訳のわからない女との飲み会をそろそろ加減に切り上げようとしていた。
「やだやだ。こんなの序の口ですよ。まだまだこれからです。私がどうしてアパレルメーカーに勤めたかったか話しましたっけ?」
「聞いた。三度聞いた。いっとくが、俺はあんたの就職した理由とか夢とか聞く理由無いから」
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