第一段階 手を握るという行為

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第一段階 手を握るという行為

 ★ 12月の朝、いつも乗っている時刻の通勤電車。 電車内は、すでに満員の一歩手前だった。 「この先、カーブがあります」鼻にかかる運転手の車内アナウンスが流れてすぐに揺れて体が大きく横に傾いた。 一生懸命耐えながらも吊り革を掴む貴子の手は、むぎゅうって感触と共に大きな手に荒々しく掴まれていた。 「うーーーーーっ!」 なんとか揺れを乗り越え、やっとの事で体勢を立て直してから貴子は、自分の手を掴んだ男をキッと睨んだ。 「ちょっと! あんたねー」 貴子の手から、手を離してほっとしたように息をついたスーツ姿の男は貴子の声に顔を向ける。 スーツの襟を正し、ジャケットの裾を軽く引っ張ってネクタイに手をやる男。 ハッと息を飲んで貴子は、男のやけに整った顔を見つめた。 見惚れたと言っても言いすぎじゃないかもしれない。 ―――なんて、綺麗な顔の男なんだろ。 「なにか?」 「はあ? なにか? じゃないわよ。急に人の手を掴んでおいて!」 男は、表情を変えずに貴子を見ている。 「きみの手を掴んだわけじゃない。吊り革を掴んだんだ」
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