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酔いつぶれた貴子を前にしながら、白井は名刺を取り出して一本の電話をかけていた。
「あ、夜分に申し訳ありませんが……」
白井は酔いつぶれた貴子の事を迎えに来てもらいたいと今日、商談で貴子と一緒に会った尾田に頼んだのだった。
―――ったく。面倒な女。
置いて帰る訳にもいかねえし、引き取りに来るまで待つか。それにしても……。
向かい側、テーブルの上に突っ伏している貴子を見ると、淡い水色のブラウスの襟元から白く細いうなじが見えている。
ジョッキを掴んだままの白くて華奢な手。細い指先。
―――黙って見てるだけなら、いい景色なんだけどな。
白井は、手を伸ばしてジョッキを掴んでいる貴子の指をジョッキから離した。
すると、貴子の手が何かを追い求めるように動いて白井の手を握ってきた。
むにゃむにゃと口元を動かしている貴子。
腰を上げて顔を覗くと、瞼はきっちり閉じたままだった。
―――無意識に掴んでるのか?
白井の大きな手を握る貴子の白くて細い指。なんとなく払いのける気分にもならなかった白井は、そのまま貴子に手を握らせておく事にした。
―――仕方ない。今だけだ。
また、目を覚ましたらうるさいからな。このままにしておこう。
白井は少しだけ指先に力を加えてみた。温かなぬくもりが貴子の手から伝わってくるのを感じた。
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