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「申し訳ありません。白井部長」
店に現れた尾田は、へいこらと頭を下げっぱなしだった。
「いや、わざわざ呼び出して済まなかったね」
貴子に今まで握られていた手を白井は、そっと放した。
「えっと、でも……なんでまた、白井部長は藤谷と飲む事に?」
尾田の疑問は、もっともだった。
コートを羽織ながら息を大きく吐いた白井。
「よくわからないが、誘われたんだ。彼女に」
そう言って、テーブルに突っ伏したままの貴子を見おろした。
「ええ? こいつが! 本当にすみません。いくら男がいないからって見境ないなあ。あの、厳重に注意しておきますので」
座敷に上がると、尾田は乱暴に貴子の華奢な肩をゆすり始めた。
思わず、乱暴すぎやしないかと注意しそうになったが、白井は口をつぐんだ。
―――俺には関係ない女だ。こんな酔っ払いは、同僚の男へ任せればいい。
白井は、体格のがっしりとした尾田を眺めた。
「じゃあ、会計は済ませておくから」
会計をしながら、座敷の方を眺めた。
尾田の大きな手が貴子の肩や背中に触れていた。何故か、胸にいくらか苦々しい思いが広がっていったが、白井は財布をしまうと二人に背を向けて静かに店を出て行った。
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