第二段階 キスという行為

11/11
前へ
/38ページ
次へ
「申し訳ありません。白井部長」 店に現れた尾田は、へいこらと頭を下げっぱなしだった。 「いや、わざわざ呼び出して済まなかったね」 貴子に今まで握られていた手を白井は、そっと放した。 「えっと、でも……なんでまた、白井部長は藤谷と飲む事に?」 尾田の疑問は、もっともだった。 コートを羽織ながら息を大きく吐いた白井。 「よくわからないが、誘われたんだ。彼女に」 そう言って、テーブルに突っ伏したままの貴子を見おろした。 「ええ? こいつが! 本当にすみません。いくら男がいないからって見境ないなあ。あの、厳重に注意しておきますので」 座敷に上がると、尾田は乱暴に貴子の華奢な肩をゆすり始めた。 思わず、乱暴すぎやしないかと注意しそうになったが、白井は口をつぐんだ。 ―――俺には関係ない女だ。こんな酔っ払いは、同僚の男へ任せればいい。 白井は、体格のがっしりとした尾田を眺めた。 「じゃあ、会計は済ませておくから」 会計をしながら、座敷の方を眺めた。 尾田の大きな手が貴子の肩や背中に触れていた。何故か、胸にいくらか苦々しい思いが広がっていったが、白井は財布をしまうと二人に背を向けて静かに店を出て行った。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

153人が本棚に入れています
本棚に追加