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尾田は、楽しそうに『おてて~つないで~』と鼻歌を歌っている貴子を見つめた。
「繋いだに決まってんだろ。俺を誰だと思ってやがるんだ?」
「尾田」
「だろ? 俺は、やる時はやるからな。それで~手を繋いだ後は~~」
尾田が貴子の背中へ手をやり、ぐっと自分の方へ引き寄せて貴子の顔に自分の顔を近づけた。
驚いたように尾田を見上げる貴子が瞬きを数回した。
「こうやって~近づいて~」
「ストップ!」
貴子は、酔いが覚めた様に目を大きく見開いた。
「尾田! 野獣! やめてよね。実験台にすんの」
「手を繋ぐのは良くて、キスは駄目なのかよ」
諦めたように尾田が貴子から顔を遠ざけた。
「当たり前。尾田と私は、同じ穴のムジナ。違うか。とにかく、相方とキスはしません!」
貴子は、今だにふらつく足取りではあったが、一人で立ちながら両手を交差させて『バツ』の形を作った。
「漫才師だったら相方とキスする人もいるぞ」
「え? ああ、あれは夫婦漫才の人じゃん。あれは、ほら夫婦だからいいの!」
「ふーん。……あおっておいてキスは無しなのかよ」
「ん? なんか言った? 尾田」
ふらふら歩く貴子の隣へ行くと、また体を支える尾田。
貴子が横へ来て黙っている尾田の鼻先を指でつついた。
「ったく、尾田は黙ってたらイケメンなのにねー」
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