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プロローグ
まだ少しだけ中身が残っていた珈琲の缶が、音を立てて地面に落ちていった。
突然に抱き寄せられたせいで、貴子の全身の力が抜けていった。
―――なんなの。これ。
「俺としちゃう?」
抱きしめる耳元で囁くように尾田が言う。
「な、なに?」
貴子は、目を見開いて尾田の胸を押し返そうとした。
「なあ、してみちゃう?」
「なんなの? それ」
尾田の顔が貴子の顔の真ん前にあった。
「なんなのって? 説明必要なのかなあ」
尾田が、奥二重の涼しげな瞳を貴子へ向ける。
「そういう訳じゃな……ひゃ!」
完全に戸惑っている貴子の腰に手を回し、改めてぎゅっと自分の方へ引き寄せる尾田。
強引な手口に貴子は、驚いて尾田の顔をまじまじと見つめた。
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