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「やめるって何を」
「男としては見るなって事」
「見てないよ。あほじゃん。尾田って」
貴子は、尾田の頭をゲンコツで一回殴るとエレベーターへ乗り込んだ。
「そうかあ? あっちは、その気があったりしてな」
「まさか」
エレベーター上部にある階を知らせる数字を見ながら、貴子は笑い飛ばした。
「だってよ、俺見たんだ。お前を迎えに行ったら、お前と白井部長ってば手を握ってやがんの」
尾田の唐突な発言に貴子の笑いが消し飛んだ。
「何馬鹿な事言ってんの? そんな覚え無いんだけど」
「この目で見たんだから仕方ねえだろ」
「そんな事ある訳ないじゃん」
二人は、小突きあいながらエレベーターを降りた。
並んで歩きながら貴子は、少しこめかみを押さえた。
―――うそでしょう。手を握った? 私と白井部長が? ありえないから。全く尾田ときたら何を考えてそんな事を言うんだか。
「おい、大丈夫か? 二日酔い」
「うーん。何とかね」
「藤谷、今度から飲みたいときは、俺を誘えよな。いいか?」
ビルを出て、信号を待った。
「わかった。ありがと」
ほっとしたように尾田が微笑む。
「でもさ、尾田は彼女いるじゃん。悪いよね。彼女に」
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