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「尾田は、彼女いるからノーサンキュー」
二人は、揃って横断歩道を渡り始める。
「じゃあ、彼女いなけりゃ俺の事好きになんのかよ」
「うーーん。どうかなー。無理かな」
「なんで」
「尾田は、単細胞だしー。喋りすぎるしー軽薄だから」
尾田を好きにならない理由を指折り数える貴子。
「軽薄を直したら?」貴子の顔を覗き込む尾田。
「直るかな? そしたら、考えてあげてもいいかもね。黙ってたらイケメンだし」
そんな尾田を見上げて、微笑む貴子。
「だろ? じゃあ、手っ取り早く俺にするか? 藤谷」
肩をつかまれた貴子は、怪訝そうに肩におかれた尾田の大きな手を見つめた。
「無理だって、尾田は相方だもん」
尾田の手をつまんで下におろすと、その手が今度は貴子の手を握ってくる。
「尾田、これは何? また、なんかの練習?」
無言の尾田。横断歩道を渡り終えた所で立ち止まった。
後ろには、通り過ぎていく車の唸るような音が聞こえていた。
「尾田!」
貴子の手を握る力が少しだけ強くなった。
「無口が好きなんだろ? だから、黙ってみた」
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