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第五段階 嫉妬というプロセス②
―――なんて女だ! 午前中、いや、朝一に電話を入れると言ったくせに何の音沙汰も無い。
朝から渋い表情を見せている白井に社員たちは、近づかないようにしていた。
「今日の部長どうしたの?」
「機嫌悪いみたいよ。珍しいよね」
白井は、いかなるときでも冷静な判断を出来て無闇に苛立つ事のない人物だと社員は位置づけしていた。
その白井が苛立っているのは、相当珍しい事だった。
―――あり得ないだろ。自分から取り付けた約束を破るなんて、相当な女だな。
デスクの上の電話がなる度に、白井は姿勢をただし全神経を受話器に集中させた。
だが、その度に集中したことが無駄だと思い知り、自分がそんなにも必要のない緊張感に囚われていることが歯がゆくて仕方なかった。
―――なんで俺が、あの女の電話を待たなければいけないんだ? そうだよな。待つ必要なんか全くないんだ。
再び電話を苦々しい思いで一瞥したのちに、白井は事務所を出る事にした。
それでも、事務員に
「私あてに電話が来たら、携帯に知らせてくれ」と、念を入れた。
白井が出て行くと、事務員の女性が言う。
「あえて言わなくたって、いつも知らせてるのにねえ」
「よっぽど大事な電話なんだろ。さっきからずっと電話をチラチラ見てたから」
男性の事務員が明るい声で笑った。
仕事に没頭する白井を婦人服の販売たちは、皆一様に憧れの眼差しで眺める。
夕方から閉店時間にかけて、婦人服のフロアの女性は、それこそ販売員から掃除婦に至るまで年齢など関係なく皆そわそわし出して化粧のノリを今更ながらに気にする。
どのメーカーの販売員とか社員だとかバイトだとかも関係ない。全ての女性が女としての感情を豊かに取り戻す時間である。
「大丈夫? 私の顔」
「あー、メイク直しの時間が無かったあ」
「今日こそ、話しかけるからね」
婦人服フロアの女性たちが、色めく時間帯な訳は……
「あ、来た!」
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