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★★★
落ち着いたバーのカウンターに座って、たそがれたムードで一人でグラスを傾けている貴子を発見した尾田。
つかつかと貴子の隣へ行き、スツールに腰をかけた。尾田は、小さめの椅子が苦手だった。
なんどか座りなおしてもやっぱり落ち着かなかった。
「尾田、来たの?」
「ああ、一人で飲むなって言ったろ」
「うん。今日はそんなに飲んでないよ」
静かに微笑む貴子。
「すいません。ビール下さい」
バーテンに注文する尾田。
「なんかあったのか? 今日は買い物するとかって言ってなかったか?」
「買い物。したわよ。でもさ、帰りに白井部長に会ってね」
「白井?」
それから、貴子がこのバーで飲むいきさつになった白井との一件を聞いて尾田は拳を握りしめた。
「だから、言っただろが! ひとりであのセクハラ部長に会うなって」
「仕方ないわよ。偶然会ったんだもの」
「やっぱり、あのエロ部長は、コートの一件からなんかあるとは思ったけどよお。許せねえ」
声が大きくなり拳を振り回す尾田。貴子は、なだめるように尾田の拳を握ってテーブルに置いた。
「なんだかさ、キスぐらいで泣く歳でもないし。かといって家に帰る気にもならなかったの」
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