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猫がしっぽを揺らせば、私は傘を廻す。
猫がハミングをすれば、私は肩を揺らす。
一向に止む気配のない雨の中。
猫と私の、十分間の行進。
楽しい時間は、酷なほど短く感じるもので。
遥か遠くだと思っていたバス停に、もう着いてしまった。
携帯で時間を確認しようとしたところへ、タイミングよくバスが来る。
傘を畳もうとした時
「にゃあん」
目を向けると、声のしたところに猫の姿はない。
傘を見る。
座っている猫。一瞬、以前と変わらないように見えた。
けれど、すぐに違いに気づく。
「疲れた? 今日は、ありがとうね」
傘を畳み、バスに乗り込んで、席に座る。
曇ったガラスを擦り、外を眺めた。
雨は相変わらず、ざあざあと降っている。
黄色いカッパを着た小さな子どもが、水溜まりに飛び込むのが見えた。バスはその横をゆっくりと通り過ぎる。
しばらくは雨が続くだろう。だって、梅雨だから。
そう思っても、以前とは違い、嫌な気がしない。
雨粒の滴る傘を「ちょん」と、つついた。
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