傘の猫

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傘の猫

 あーあ、今日も雨か。  溜息を吐いて、傘を広げた。  紺色の布地に、降り注ぐ水色の雨粒。その中に黒猫が一匹ちょこんと座った柄の、お気に入りの傘。  十七歳の誕生日に買ってもらった記憶があるから、もう三年は使っている。  さて。ここから駅に行くには、四十分は歩かなければいけない。  晴れているなら歩いても良いけど、あいにく今日は雨だ。歩きたくない。  ならばどうするか?   バスに乗ればいい。  ……と言っても、最寄のバス停までは結局十分は歩かなければいけないのだけど。  ああ、ユウウツだ。漢字で書くと「憂鬱」。画数が多い。  想像しただけで嫌になる。  おまけに雨はざあざあ降っているから、ユウウツは三倍だ。  梅雨だから仕方ないのだけど、どうにも雨は好きになれない。服を着ていても濡れて、身体が冷えてしまう。気分を重くするだけで、煩わしいとしか思えない。  気分が重くなると、つられて足取りまで重くなってしまう。  「十分って意外と長いな」なんて思いながら、歩いていた。  ふと、広げた傘を廻してみた。  小さな頃は、「他の人に迷惑が掛かる」と怒られたものだ。今は怒る人が前を歩いていないし、周囲に人がいないことも確認した。存分に廻すことができる。  きらきらと水滴を散らしながら、傘は廻る。  紺色の世界の中。猫も座ったまま、くるくる、くるくる、くるくる……
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