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みゃおう、と猫が鳴く。
ふとそれに気付いて振り返ると、しかし何もいなかった。
おかしいな。
思わずそう思ってしまう。
と言うか、僕のいるすぐ後ろは行き止まりで、良く考えれば他の生き物の声など聞こえるはずも無いのに、猫の声が聞こえるのは、実におかしなことなのだが、そんなことはすっかり失念していて、うーんと悩んでしまう。
猫というのは不思議とそう言うところにするりと潜り込んでしまうような気がして、なんだかいても不思議ではないような気がして、だから思わずその存在を探してしまったわけなのだが。
……それに、その猫の声を知っているような気がしたのだ。
小さい頃、近くの公園で見掛けた捨て猫。
本当は連れて帰りたくてたまらなかったけれど、僕は当時、ペット禁止のアパートに、母と二人暮らしで。
だから、度々様子を見に行くことはあったけれど、餌を与えることも出来ず、いつも心のなかでごめんねと呟いていたのだ。
その子猫の鳴き声に、やっぱりどこか似ている気がして、僕は何度も首をひねる。
もともと動物は好きだ。
でも、機会に恵まれず、飼ったことはない。
ただ、ついこの間引っ越したマンションはペットOKで、だからもしチャンスがあれば、とは思ったりもしていた。
みゃぁお。
また猫の声。いたずらっ子なのだろうか? 僕を翻弄するように、猫の鳴き声があちらこちらから聞こえて。
その声に導かれるようにふらふら歩き出す。
薄暗い空の下、僕はぼんやりと歩いている。声の主を探すように。
――と。
耳の横で、大きなクラクションが、聞こえた。
次の瞬間、ぼくの目の前は真っ暗になり、そして、
小さな、翼をはやした子猫が、僕を迎えに来ていた。
ああ、あの時の子だ。……僕はほんの少し泣いて、そして地を蹴った。
瞬間僕の背中にも羽が生えて、出迎えてくれた子猫のあとを、ゆっくりついていくことにしたのだった。
もう、重力なんて、要らない。
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