ハートブレイクショット

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「大丈夫、触るだけだから。それ以上のことはしないから」 「……っ」 口を引き結んで、食い込んでくる指に耐えていると、ふと、奥の姿見が目に入った。 美青年から胸を揉みしだかれている中年男の構図のおかしさと、その中年男の淫らにとろけた顔に、絶句する。 嘘だろ、俺、あんな……! 恥ずかしい。 だけど、逃げられない。 密着した体の熱さで、四肢が弛緩している。もがく力すら入らない。 背中にあたる硬い筋肉。 たるみが一切ないシャープな体つき。 これだけ見事な肉体なら、世界の舞台でも見劣りしない。 世界のリングでライトを浴びる智典を想像して、体がいっそう熱くなっていく。 「とも……のり……っ」 はぁっ、はぁっ、息を乱して見上げると、端正な顔が苦しそうに歪んでいた。 「……貫一さん、好きだよ……」 何かをこらえているような切羽詰まった声が、耳へ吹き込まれる。熱い吐息とともに、 「好きだ、好きだ。……あなたが、好きだ」 「智典……」 俺も、と言いかけたとき、ふっと体が自由になった。
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