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戸惑って振り返ると、智典は泣きそうな顔で微笑んだ。
「……ごめん、貫一さん」
「智典……」
「ロード行ってきます」
逃げるように出て行った智典を、呆然と見送る。
高まった動悸がうるさい。
中途半端に昂ぶった兆しを、意識からシャットアウトするように何度も首を振り、壁にかかった認定証に目をやる。
智典が日本タイトルを獲ったあの試合、倒れた柳瀬に、親父の姿はかぶらなかった。
もちろん心配しなかったわけではないけれど、急き立てられるように安否を確認しようとする衝動はなくなった。
……俺は、ようやく親父の死を受け入れられたのかもしれない。
智典が日本チャンピオンのベルトを巻いた姿を見たとき、俺が背負っていた親父の夢は昇華されたような気がした。
ここからは、俺の夢だ。
世界チャンピオンのベルトを巻いた智典が見たいという、俺の夢。
それが叶えば、俺は……。
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