あなたの好き

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柳瀬さんとの試合から3ヶ月が過ぎた。 今、俺は北九州市のホールに来ている。 ホールの入り口には、ベルトを巻いてファイティングポーズを取った俺のポスターが貼られている。 この興行の主催は長浜ジムだが、メインイベンターは俺だ。 長浜さんから持ち掛けられたこの試合が、日本チャンピオンになって初めての試合になる。 そして貫一さんにとっては自分が育てた選手の初メインイベンター試合になるので、やはり緊張しているらしく、朝からそわそわと落ち着きがない。 今も、ガサゴソとバッグの中を漁っている。 「あれ、ワセリンがない。おかしいな、ここに入れたはずなのに」 「車のトランクの中に落ちてるんじゃないですか?」 「ああ、そうかも。ちょっと取ってくる」 慌ただしく貫一さんが出て行ったのと入れ違いに、三輪さんが控え室に入ってきた。 俺が腹に巻いている日本ミドル級のチャンピオンベルトを見下ろして、 「わあ、本物だ」 「三輪さん、お久しぶりです」
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