あなたの好き

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それからしばらくしてスタッフに呼ばれ、俺たちは控え室を出た。 会場には、地元福岡から誕生したチャンピオンを見ようと、大勢の客が詰めかけている。 「それでは本日のメインマッチ10回戦を行います! 日本ミドル級チャンピオン、来宮智典選手の入場です!」 赤いステップを踏むのは、そういえばこれが初めてだ。赤いコーナーポストに落ち着かなさを感じつつ、対角のコーナーを見る。 いつも俺が背にしていた青いポストの前には、しなやかそうな筋肉をまとった男がいる。 フィリピンから東京の長浜ジムに招聘されていた、アジア・オセアニア地域のタイトルであるOPBF(東洋太平洋)ミドル級ランキング2位のNelson Santos Ocampo(ネルソン(ニール)・サントス・オカンポ)選手だ。 彼は俺と柳瀬さんの試合を観戦していたらしく、「どうしても来宮と対決したい!」とオファーしてきた。 世界を目指す俺にとって、ニールに勝ってOPBFランクに入りするメリットはあまりない。 OPBFタイトルは、獲得しても世界挑戦する際に返上しなくてはならないからだ。 それに彼はいわゆる『噛ませの外国人ボクサー』ではない。 世界を目前にした俺がいま相手にするにはリスキーだと貫一さんは受けるのを渋ったが、俺が、世界のステージに立つにあたり色々な選手と戦うことで切磋琢磨したい、日本では味わえない独特の距離感やスタイルを知る良い機会だと言って強引に受けた。
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